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火花散るアジア大会前哨戦~日台交流戦

ユニフォームを着た上野姉妹。「TEAM JAPAN」の文字入りで白黒2色

 今月下旬から開催されるアジア競技大会に向けて8月27日と29・30日の3日間、「日台交流戦」が日本棋院・東京本院で行われた。
 許皓鋐(きょ・こうこう)九段、王元均(おう・げんきん)九段ら中華台北代表チーム9人が来日。迎え撃つ日本側も一力遼棋聖、芝野虎丸名人、関航太郎天元らナショナルチームメンバーを中心に、福岡航太朗四段、酒井佑規四段といった有望な若手をまじえた24名の強力な顔ぶれをそろえた。
 対戦結果は別表のとおりで、通算では49勝38敗と日本側の大幅勝ち越しとなった。
初日 14勝15敗
2日目16勝13敗
3日目19勝10敗
合計 49勝38敗(勝敗は日本側から見たもの)

上野姉妹のツーショット。ユニフォームは選手一人ずつ採寸してつくられている

・アジア大会に向けて
 丁六段&張九段インタビュー

中華台北チームコーチの丁首傑(てい・しゅけつ)六段(左)と張豊猷九段

 中華台北チームのコーチ丁首傑(てい・しゅけつ)六段と、日本側でこの交流戦をオーガナイズした張豊猷九段にお話をうかがった。
――今回の日台交流戦はやはりアジア大会に向けたトレーニングの意味合いが強いのでしょうか?
「はい、アジア大会に出場する選手の訓練の一環です。アジア大会は中国での開催。そのためにアウェイの環境で、より厳しい対局条件に臨んでもらうことが目的でした」
「今回はアジア大会への正式な強化トレーニングなので、国から渡航費などの費用が出ています」
――1日3局というのはなかなか厳しいですね。
「アジア大会の本番では5日間に10局打ちます。個人戦に出場する選手はもっと増えますね。これまで体験したことのないような対局数ですので、今回のようなハードな日程はなかなかいいな、と思っています」
「じつはこのスケジュールは僕が決めたものなのですよ。当初はアジア大会と同じく1日2局という要望でしたが、それではひとり6局しか打てない。僕としては日本の棋士にも台湾の棋士にも、いろんな人と打ってほしかったので1日3局にしてもらいました。対戦の組み合わせも僕が決めたもので、代表チーム同士を当てるばかりではなくそれぞれの国の強豪が若手や女流棋士とも打てるようにバランスを考えて組み合わせました」
――台湾のナンバーワン棋士・許皓鋐九段について聞かせてください。「台湾勢が伸びてきている」と話題になると、必ず名前が挙がる打ち手です。
「許さんは9個あるタイトルのうち8冠王(2022年)。戦いが好きな棋風で、国家チームに入ると海峰棋院で毎日のように練習対局が組まれるのですが、いつも熱心に取り組んでいます。練習対局がない日でも必ず棋院に来てAIを使って研究しており、とても勉強熱心ですね」
「許さんは力の強い棋風で、一力さんとウマが合うというのかな、よくネットで対局していますね。お互い意識しているところはあるのではないでしょうか」
――今回は、許家元九段が中華台北チームの一員として参加されるのですよね。そのあたりの選考理由は? 日本在住の棋士なら余正麒八段も当然候補だったと思いますが。
「アジア大会はもともと2022年に開催される予定で、それが1年延期になって今年の開催になりました。なので代表の選考は一昨年に行われており、その時に(十段の)タイトルホルダーだった許家元さんに参加してもらいました」
――最後に、台湾のメダル獲得の可能性はどのように考えていますか?
「中国や韓国にまだ及ばないとは思います。ただ日本とはいい勝負ができるのではないでしょうか」

・対日本の勝率は40パーセント 
 許皓鋐九段インタビュー

「8冠王」の許皓鋐(きょ・こうこう)九段

 許皓鋐九段は台湾の第一人者。台湾では主なタイトル戦が9つあり、昨年そのうちの8つを制覇した「8冠王」だ。この交流戦では一力九段、芝野九段、伊田九段を下しており、その実力のほどを見せた。
――今回の交流戦では5勝4敗。この成績については?
許「自分のなかではこんなものかな、と。アジア大会に向けての訓練でしたが、ある意味では今回の交流戦の方が大変だったかもしれません。1日3局でしたからね。本番のアジア大会は期間は長いのですが、1日2局。合い間に休憩をしっかり取れますから」
――中華台北チームのメダル獲得についてどう考えておられますか?
 「中国・韓国は少し抜けていて、銅メダルを日本と争うことになると思う。台湾は日本よりはチーム力が劣っており、勝率は40パーセントくらいではないでしょうか。女子団体戦では、中国と銅メダルを争うことになるのではないかと思っています」
――なるほど、女子団体戦の方は日本と韓国が有力ではないかと評価しているのですね。

・どちらのチームも応援しているのです
 許家元九段インタビュー

中華台北チームの一員としてアジア大会に出場する許家元九段

――アジア大会は国籍別ですので許九段は中華台北チームの出場となります。もちろん今回の交流戦には中華台北チームの一員としての参加となります。
「いやあ、なんとも新鮮な経験でしたね。相手はわりとナショナルチーム研究会と変わらない感じではありましたが(笑)」
――中華台北チームのみなさんとは、普段からコミュニケーションを取っているのですか?
「ネット対局など月2回くらいは交流はしていたのですね。いちおう一昨年から台湾の代表ということで練習には参加していましたから。台湾の棋士は印象的には早碁が強い。そのあたりに一昨年から準備してきた、という感じです。アジア大会は持ち時間1時間持ち、秒読み30秒。1時間の持ち時間はそれなりに長いのですが、30秒の秒読みが意外ときつい。普段の手合ではだいたい60秒ですのでギャップがあるんですよね。そのあたりは慣れておかないといけない。時間もそうですが中国ルールの勉強もしました。日本のトップ棋士もみな(国際棋戦などで)慣れているとは思います」
――日本と中華台北でメダルを争う展開もありえますが、そうなると許九段はどのような気持ちで対局に臨むのでしょう?
 「僕はわりとどちらのチームも応援しているのですけれど(笑)。当然、自分が出場するときには勝つつもりでやりますよ。まだ日本の方が強いとは思いますが、けっこう油断できないのではないですか」

・台湾強豪との対戦①
 一力九段vs.許皓鋐九段

許皓鋐九段と一力九段(右)の対局後の検討に、張栩九段(中央)も加わった

黒 許皓鋐九段  白 一力遼九段

棋譜再生はこちら

第1譜(1‐30)
第2譜(31-60)
第3譜(61ー90)
第4譜(91-120)
第5譜(21-37) 通算121-137
第5譜(38) 通算138

白38が敗着。

第5譜(39-50) 黒49(43の下)  
通算139-150

前譜白38で48のフクラミなら黒が右下、白が上辺一帯を取るフリカワリが予想され、形勢不明だった。

第6譜(51-80)
白64(54)、黒67(61)、白78(54)、黒79(66の上)
通算151-180

実戦は67まで右辺と中央が両コウの格好になり、右辺だけでなく下辺も取られてしまっては白が勝てません。

第7譜(81-111)
黒85(82の上)、白88(82)、黒89(83の上)、黒93(82の上)、白96(82)、黒99、白102各同、白104(82の上) 
通算181-211 黒中押し勝ち

≪一力九段の自筆コメント≫
 序盤は互角の立ち上がりで、右下から競り合いが始まりました。
 中央の攻防が勝負所で、白は136で先に137を決めていれば優勢でした。(第5譜の)138が敗着で、148のフクラミなら黒が右下、白が上辺一帯を取るフリカワリが予想され、形勢不明でした。
 実戦は167まで右辺と中央が両コウの格好になり、右辺だけでなく下辺も取られてしまっては白が勝てません。
交流戦 全体の感想
 今回は3日間で、男子団体戦に出場する6人全員と打つことができました。対局環境を用意してくれた張豊猷九段と、来日してくれた台湾代表の選手たちには感謝しています。
 交流戦には芝野さんや関さんなど、日本代表のメンバーも参加していました。対局を通じて得た課題や収穫を分析し、本番で好成績を収められるように一丸となって頑張ります。

・台湾強豪との対戦②
 藤沢里菜六段vs.王元均九段

黒 王元均九段  白 藤沢里菜六段

棋譜再生はこちら

第1譜(1-30)
第2譜(31-60) 
第3譜(61ー90)
第4譜(91-120)
第5譜(21-50) 黒37(30) 通算121-150
第6譜(51-80) 通算151-180
第7譜(81-110) 通算181-210
第8譜(11-40) 通算211-240
第9譜(41-75) 
白48(47の右)、白66(47)、黒75(59の上)
通算241-275手完、黒1目半勝ち

藤沢里菜六段感想
 「久しぶりの交流戦ができて楽しかった。本番同様に持ち時間1時間、秒読み30秒の対局をこなし、アジア大会がいよいよ近づいていることを実感して気持ちが引き締まりました」

・交流戦の対局結果一覧

対局後には皆で食事をして親睦を深めた

(記・関根新吾)

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