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第23回碁界の礎百人―高野山の決戦【橋本宇太郎②岩本薫②】

 第3期本因坊戦六番勝負は、原爆の洗礼を浴びた第2局の3ヵ月後、千葉や東京の個人邸で打ち継がれ、3勝3敗。申し合わせどおり本因坊の座は日本棋院預かりとなり、翌昭和21年夏の決勝三番勝負に持ち越された。対局場は高野山・金剛峰寺の塔頭の総持院。第1局の最初の二手だけは広島廿日市の蓮教寺で、原爆犠牲者供養のための打ち初め式で打たれた。
 高野山の決戦の設営責任者が毎日新聞社大阪学芸部の井上靖だった。のち『氷壁』『天平の甍』『しろばんば』などの代表作で知られるようになる文豪である。関係者への食糧確保が並大抵の苦労ではなかったという。食事はもっぱら精進料理。岩本は『囲碁を世界に』(講談社)で「はじめのうちはよいが、二日目、三日目となると便所へ立つのもふわぁとして体が宙に浮いているように感じた。スタミナがない」と書いた。しかし盤上のスタミナは別だった。

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