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〈無料記事〉【埼玉大学】酒井真樹九段の囲碁授業「運動方法実践研究B」

 「ミライを育てる」の第8回は埼玉大学の授業「運動方法実践研究B」を紹介する。
 この授業の受講者は学校の体育の先生を目指している学生たちで、ほとんどの学生が何かしらの運動部に所属しているアスリートだ。また授業を担当している菊原伸郎先生もサッカー部の監督を務めている。この授業ではマインドスポーツやブラインドフットボール、目隠し遊びなどを体験して「分からないことが分かる」「出来なかったことが出来るようになる」という過程を実践の中から主体的に気づくことで教員になった際や社会に出た際の問題への立ち向かい方を養う授業になっている。この体験の一つとして囲碁がマインドスポーツから選ばれている。囲碁の講師を担当するのは酒井真樹九段

学生に指導碁を打つ酒井九段

 今回取材したのは酒井九段が担当する最後の回。酒井九段に対して学生3~4人1組になっての13路盤5子局の対局が行われた。この指導碁ではグループでの相談が許されており、活発に意見の交換が行われて酒井九段にどうやって勝つか夢中になっていた。
 対局の結果は酒井九段の4勝2敗であった。

真剣に考える学生たち
授業の振り返りをしている酒井九段

 対局後、学生たちから授業の感想が発表され「最初に比べて囲碁が打てるようになり、俯瞰的にみる力がつきました」「囲碁にハマって授業を重ねるごとに新しい形を知れました。囲碁はスポーツにも部分的に似た部分があると感じました。今後も向上心を持って囲碁に接したいです」などの前向きな意見が集まった。
 酒井九段からも振り返りがあり、この日の対局に関して「腰の痛みがあったが打つのが楽しく痛みもなくなった」と話しはじめ「45年やっても同じ碁はなく、新しい発見があり楽しく感じます」と囲碁の奥深さを伝えていた。

 授業を受けていた渡邉さんと黒田さんに囲碁のイメージと酒井九段についてお話を伺った。

インタビューに答えてくれた渡邉尊稀さん

 「囲碁のイメージはやってみる前は年配の方がやっているイメージで実際にやってみると奥が深く中学生くらいからマインドスポーツとして取り入れるのは大事だと感じました。酒井先生は一人一人に目を向けてわからないことにしっかりとコミュニケーションをとってくれて、受けていてとても楽しかったです」

インタビューに答えてくれた黒田ひかりさん

 「囲碁は将棋より難しそうで自分にはできないと思っていたが、分からなくてもルールを知るだけでやり方とか自分で考えて打てるようになったので、誰にでも打てるものなのだと思いました。酒井先生はめちゃくちゃ優しい方で本当に囲碁が好きなのだと囲碁にポジティブに関わるきっかけをくださりました」

 埼玉大学の授業に関して酒井先生にお話を伺った。

「囲碁を楽しんでもらいたい」と話す酒井九段

・今年の学生の印象を教えてください。
 「すごく熱心で、分からなくなっても頑張ってどうなっているかを感じながら楽しんでやってくれました」

・埼玉大学ならではの学生の特徴はありますか。
 「菊原先生と学生の間での信頼関係という下地があるので、私が来てもすぐに受け入れてくれて囲碁を好きになってくれました」

・授業で教える際の工夫はありますか。
 「最初のころは資料に沿ってガチガチにやっていましたが、マニュアル通りにやるのではなく菊原先生からアドバイスをもらってその時々の学生の反応を感じながら、コメントシートに寄せられた疑問点などに答えるようにしながら授業を進めました」

・今日の対局の感想を教えてください。
 「ここまでしっかり打てるとは思いませんでした。思った以上に理解してくれているのだなと感じました」

・今後学生たちに望むことはありますか。
 「囲碁を楽しんでもらいたいです。授業でやったことを思い出して気分転換で碁を打ってくれたら嬉しいです。また19路盤でも打ってみてほしいです。そしてできれば学校の先生になる方が多いので囲碁を放課後でやるとかそういった機会を作ってほしいです」

囲碁とサッカーの共通性について教えてくださった菊原先生

 授業全体を担当している菊原先生にお話を伺った。

・今年の受講生の印象を教えてください。
 「受講者の学生たちは体育教師志望がほとんどで専門のスポーツがあり、日常的に活発に動いているので元気です」

・この授業の概要を教えてください。
 「囲碁の授業以外に、目隠し遊び、ブラインドフットボール、キャッチボールなどのボール操作、マインドスポーツ、障碍者スポーツ、フィジカルスポーツの実践を行います。教師として学校に行ったとき体育の時間に出来ないことを出来るようにさせる、その過程で分からないという気持ちを理解させるために普段やったことのない障碍者スポーツやマインドスポーツをやってみることで、分からないことが分かってくる実践体験を通じての学びが狙いです」

・囲碁の授業にあたっての工夫などありましたらを教えてください。
 「13路盤の授業を増やすというのは希望を出しました。13路盤を増やすことで囲碁を打てる時間が増えるという実感があります。19路盤は盤が大きく、初心者では停滞をしてしまうことがありますが(9路盤を経ての)13路盤だと打てる実感が持てます。また振り返りとかモチベートをかけて臨ませています。途中で分からなくなる世界が出てくるのでその時に何が分からないのかをしっかり質問するとか本で学ぶなど、その予習復習をやって一回一回を大切にしてほしいという言葉がけを常にしています。それが分からないことが分かるようになるとか出来なかったことが出来るようになっていく過程の成長過程のフェーズを体験していくというメンテナンスを欠かさずしています。あとは自身のスポーツとかさなることはないかという言葉がけもしています」

・囲碁とスポーツの共通性や今後授業で挑戦したいことなどを教えてください。
 「19路盤は停滞してしまうと言いましたが、19路盤の世界観はサッカーにつながると思っています。囲碁では普通にやっていてはこのままでは負けるという場面で相手の陣地に打ち込んでいきますが、サッカーでも長いボールを入れて混戦にすることでチャンスを作る場面があり、ゴール型の競技は囲碁と近い部分があります。逆にバレーボールなどのネット型の競技の学生たちはどういった部分が重なるか興味があります」
 「学校の教師を指導する立場として数年前までは決まったことが出来ればいいという感じで教えてきました。ですが現在教育現場では教員が教育的配慮で解決しなさいと言われても困難な想像以上の問題が起きています。そういった問題に対して一緒に解決しましょうという心構えとその手立てはどう考えるかを課されていると感じています。そういった出来ないことをどうやって解決するかの練習として、あえて囲碁の難しい局面からスタートして何が起こるか酒井先生も含めて頭を悩ませるみたいなこともやってみたいです」


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