上野がペースを乱さず 先勝【新人王戦決勝三番勝負第1局】
第48期新人王戦決勝三番勝負第1局
姚智騰六段と上野愛咲美女流名人による第48期新人王戦(主催・しんぶん赤旗)決勝三番勝負第1局が9月12日に日本棋院東京本院で行われた。
対局当日のタイムラインはこちら
姚は毎年優勝候補のひとりに挙げられる実力派。入段以来10年間来新人王戦に出場しているけれど、年齢制限(25歳以下)に達する前の最後の年に最大のチャンスをつかんだ。
上野は、一昨年に外柳是聞五段に敗れて以来となる2度目の決勝進出。女流棋士としては初の新人王獲得をめざす。よくご存知のように「ハンマー」の異名をとる剛腕の持ち主。戦いになるとイキイキと石が躍動し始める。
新人王戦第1局は上野女流名人が結果的には快勝。難しい場面が続いたものの、一度も劣勢に追い込まれることなく勝ち切った。
終局後のインタビューに答えて、上野は「序盤から難しい碁で(形勢判断が)よくわからなかった」と首をかしげていた。「中盤でも攻め合いとかコウの判断をしてばかりで、そういうところに時間をたくさん使いました。戦いの碁にはならず、わたしとしては『不思議な碁』。(勝ちという)結果は良かった」。
一方の姚は「それなりに準備はしてきたのですが…。もう少し踏ん張れる場面があったかもしれません。(上野さんは)思っていた通りの強さだった。スキがなかったですね」と盤の向こうに座る上野をたたえた。局後の検討の結果、姚に一瞬のチャンスはあったものの、それをつかめずに悔しい敗戦。「第2局も精一杯頑張りますが、厳しいかなあ」。
〈第48期新人王戦決勝三番勝負・第1局〉
白 姚智騰六段 黒 上野愛咲美女流名人
(持ち時間:各3時間、残り5分より秒読み)
棋譜再生はこちら
〈第1譜〉1―24
定刻10時、立会の張豊猷九段からの合図に従い対局開始。握りが行われて先番は上野と決まった。黒1、3の向かい小目は上野の得意な布石である。
下辺黒21ツケに白22とハネ出して戦いがはじまった。「白22でA、黒22、白24ツギが(AI判定では)評価が高いことは知っていたのですが、(実戦の白22と)やってみたくなった」と姚。
〈第2譜〉25―33
黒25ツケからサバキに出た。黒の狙いは黒30カカエからのシチョウ。そのあたりの利き筋をにらみながら、右下にモタれてサバく意図だった。
対して白26がサバキの調子を与えぬ落ち着いた応手となる。ただ、黒27から31にノビ切ることができれば黒に不満はない。
1図 黒ハマリ
黒△ツケに対して白1オサエは黒2の切り違いがサバキの常とう手段。白7までを決めて黒8とひとつ追いかけて黒10ツケが手筋。白11以下黒16となれば白のハマリ形である(次いで白aは黒b)。
〈第3譜〉34―49
白34に黒35と頭を出した。黒A、白B、黒Cを狙われているので、白36から中央を補強。このコスミツケはちょっとした様子見でもある。黒37は白38ツギと換わってやや打ちにくい手ではあるものの手堅い。白40から42ツケは、よく見られる二間ジマリへのアプローチ。
2図 これも一局
本譜の黒37では図の黒1ノビもありえる。白2から4ツギとダメを詰めて受ける予定。黒7以下白12まで黒3子を捨てるけれども続いて黒a、白b、黒c…と中央を突き抜く分かれとなる。「これも一局でしょう」と張九段。
〈第4譜〉50―61
白50押しに黒A、白58、黒Bなら穏やか。黒51ハネが力強く、次に黒C、白D、黒Eの出切りが狙い。そこで白52ツケが姚の工夫。黒53なら白54が利いて出切りを防いでいる。ただし、白のサカレ形が見るからにひどく、黒がポイントを挙げている。
3図 黒満足
黒△に対して、勢い白1ハネは黒2、4切りが来る。白5で8は黒7、白a、黒bでツブレ。そこで白5から7ツギよりないが黒8と要の2子が取れれば黒が満足の分かれ。
4図 やはり黒満足
白△に対してはやはり黒1から3切りが優った、と張九段。白6まで上辺は白に良い形を許すものの、要の白2子が取れていることが大きい。「ただ実戦でも本譜の白52を悪手にしているので自然な進行ではあります」という。
〈第5譜〉62―76
白62オサエが隅の黒との攻め合いをにらんでうるさい手。「(4図で示したように)要の白△2子を取っておけば良かったのですが…」と張九段。黒69でAと頑張るのではアジが悪く、黒69の我慢を強いられた。白Bオサエや、白C、黒A、白Dの狙いを残して白70と上辺から策動開始。
〈第6譜〉77―95
上辺の戦いが続いている。「白の弱い石が2つで黒が1つですから、基本的には白がやや苦しい戦いでしょう」と張九段。黒77切りからコウを仕掛けたのは、「白に、右上をコウ材として打ってもらいたいのでしょうね」と張九段。いつまでも右上のアジをにらまれているのでは気持ち悪く、白から右上を決めてもらいたいのだ。
5図 善悪不明
コウをやらずに黒1オサエも冷静。姚は「白2、4とやっていく予定だった」というが、これも黒5以下頭を出されて、白が苦しそうな展開が続く。上野は実戦の進行とどちらを選ぶか、かなり迷ったという。「実戦と比べて善悪不明ですね」と張九段も首を傾げた。
〈第7譜〉96―110
白96ハネに黒97引きは自重したもの。黒101やAなどと頑張りたいところだけれども、白から97、黒B、白C、黒D、白Eからの攻め合いが難しく、黒97とアジよく受けた。「ただこうなると白4子は完全に取られですから、かえって白Eのコウ材が打ちやすくなっています」と張九段。黒99に白100のコウ解消は大きいが…。
6図 形勢不明
「白100では図の白1、3と受けて、左上のコウをもう少し頑張ることもできたでしょう。コウ材は右上にありますからね」と張九段。これならまだまだ難しい形勢が続いていた。
〈第8譜〉11―30 通算111―130
黒11打ち込みから右辺で稼いで地合はリード。ただし、下辺黒が薄くなっている。白24ではのちに7図(この進行が本局では姚にとって大きなチャンスだった)で示すように先に下辺黒を脅かしてから白24が優った。「黒25でしっかり眼形を作られては白がまずかった」と局後に姚は後悔した。
7図 下辺を脅かしたい
黒△ツギに続いて、白1、3を決めてから5サガリで、黒の眼形を揺さぶる手が厳しかった。白9アテまで下辺黒は生きておらず、黒16と連絡を図るよりないところ。ただ黒10ですぐの16は白aの反撃がある。ていねいに黒10から白15を決めれば黒16が成立するものの、外側の損が甚だしい。「これなら下辺の模様が手厚く、難しい形勢でした」と上野。
〈第9譜〉31―49 通算131―149
黒31の踏み込みが鋭い。黒33やAノゾキが利くので(下辺黒の眼形が万全なので遠慮なくノゾキが打てる)、ここが消しのベストポジションなのだ。「先に白が囲っていたはずなのに、どんどん踏み込まれてしまった。ひどかったな」と姚は苦笑。
8図 勝負手
「白46では、白1、3があったのでは?」とは張九段の指摘。黒4に白5、7の二段バネが狙い。黒10以下の抵抗にも白17まで、中央黒が御用。黒4ではaと備えるくらいで、それなら白4の大きな引き出しを残して白が儲けていた。「それでも形勢は黒が悪くないかもしれませんが、ひとつの勝負手ではあったでしょう」と張九段。
〈第10譜〉50―65 通算150―165
形勢ははっきり黒に傾いている。白50からは詰碁的には巧みな手段。白62まで生きを得た。古典詰碁にでも現れそうな鮮やかな手段だけれど、姚は「この生きは14目。ならば白50では63サガリが良かったか」と反省。
〈第11譜〉66―100 通算166―200
白84サガリからは無理を承知の頑張りだが、黒95からのコウは「コウ材は黒に余裕があり、形勢を覆すことは難しい」と張九段。
〈第12譜〉1―45 通算201―245
白22までコウを解消したものの、黒31まで下辺黒を連れ戻されて形勢は大差。黒45を見て姚は投了。感想戦の席上、姚は7図を逃したことを何度も悔やんでいた。
終局は17時36分。245手完、黒中押し勝ち
(記・関根新吾)
【決勝三番勝負 日程・成績】
第1局:9月13日 △上野 中押し 姚
第2局:9月22日、日本棋院東京本院
第3局:10月9日、日本棋院東京本院
※左側が勝者、△は先番
【関連情報】
主催:しんぶん赤旗、日本棋院、関西棋院
立会:張豊猷九段
記録:伊藤優詩五段、加藤優希初段
優勝賞金:200万円
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ネット対局「幽玄の間」解説:安達利昌七段
日本棋院囲碁チャンネル解説:安藤和繁五段
よろしければサポートお願いします! いただいたサポートはクリエイターとしての活動費に使わせていただきます!