内田さん、3年ぶり2度目のV【第66回女流アマ選手権】
東京では桜の開花目前の3月16、17日の両日に渡って、第66回全日本女流アマチュア囲碁選手権大会が日本棋院東京本院にて行われ、8歳から85歳の選手が全国から集まり熱戦を繰り広げた。96名の頂点に立ったのは、内田祐里さん(シード)。決勝戦では藤原彰子さん(東京千葉)との大乱戦を逆転で制し、3年ぶり2度目の優勝を果たした。3位・村瀬なつさん(東京千葉)、4位・宇根川万里江さん(東京千葉)と、上位は関東勢が占めた。(記・内藤由起子)
初日は一次リーグと本戦トーナメント1回戦までが行われた。
ひとつのリーグ6人の中には、本大会の入賞経験者、高校選手権や大学で活躍した選手、元院生などが複数いる状況で、一次リーグを突破するのも大変だ。
昨年を含め3回の優勝経験のある大沢摩耶さん(シード)は山下聖子さん(静岡)に決勝(3回戦)で敗れ、リーグ突破を逃した。第6回大会優勝の糸井庚代子さん(京都)、高校選手権で優勝したことのある辻萌夏さん(東京千葉)、長野優希さん(埼玉)もリーグ2勝1敗で本戦トーナメントに進めなかった。
2日目、ベスト8に残ったのは須藤真理子さん(東京千葉)、村瀬なつさん(東京千葉)、井上結菜さん(島根)、内田祐里さん(シード)、久代迎春さん(シード)、藤原彰子さん(東京千葉)、西方彩華さん(関西)、宇根川万里江さん(東京千葉)。
なんといっても注目は井上さんだ。これまで女流アマ全国大会では一次リーグ枠抜けをしたこともなく、もちろんベスト8も初めてのことだという。
一次リーグでは辻さん、本戦トーナメントでは本大会優勝2回を誇る吉田美穂さん(シード)を破って、ベスト8に進出した。
井上「1局目(対辻戦)が特に難しい碁で苦しかった。ベスト8に入ることができて嬉しく思います」
井上さんは現在、島根県立大学の1年生。囲碁部はない。高校も囲碁部には入っていたものの、部員は井上さんひとり。ずっとネット碁と大会での実戦でここまで強くなったそう。
県代表のお父さんが囲碁をやっていたので6歳のときに碁を始め、地元の公民館に通ったり、お父さんに教わったりして強くなっていった。大人ばかりでそれほど面白いと思っていなかったが、「大会などに出ていい成績を残すのが嬉しくて、それを目標に頑張れました」。現在はお父さんに先の手合だそう。互先になるころには、さらに上位へ進めるだろう。
準決勝は、早稲田大学囲碁部出身の宇根川さんと藤原さん、岩田一九段門下の村瀬さんと内田さんの対決となり、どちらも後輩の藤原さんと内田さんが勝って、決勝に駒を進めた。
決勝戦は両者とも優勝経験のある実力者どうしの組み合わせとなった。解説は審判長を務める石倉昇九段。
〈第66回全日本女流アマ選手権・決勝〉
白 内田祐里(シード) 黒 藤原彰子(東京千葉)
235手完、白12目半勝ち
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〈第1譜〉1―76
藤原さんの先番。流行の布石でスタート。黒37までの進行は白ペースだ。白38は58にトンでいればわかりやすかった。先に黒47にトバれては白がいいとは言えなくなった。
黒の53、55がうまく、57で白は困っていたのに、59が甘かった。ツガずに黒61にアテ返し、白59抜き、黒62アテ、白47ツギ、黒70なら右上白が崩壊していた。ここで白が持ち直し、いい勝負に戻った。
〈第2譜〉77―103
下辺白84とハネ、黒85ツギのあと、白86と堅ツギしたのは、内田さんの勘違いがあったからだ。黒97と切られては中央の黒が強くなり、黒がやや厚い形勢になった。
白は86では1図の白1とカケツいでおけばよかった。内田さんは黒4、6に白7で耐えているのをうっかりしたという。また、せめて白96ではAとオサえ、黒B生き、白97とツイでいれば白やや厚い形勢だった。
〈第3譜〉4―58 通算104―158
「相当形勢が悪いと思った」という内田さんは、左辺の黒への攻めを見た。白10に切るなら4で切るほうが自然で「変な動きをしてしまった」と反省していた。
黒15に白16と緩めるしかなく、黒29に切って形勢は黒に大きく傾いた。
黒33は中央左の数子を捨てようというもの。藤原さん、計算ができたということだ。
しかし、黒43のノビが痛恨。白46から48と切ったのが勝ちを呼んだ手で、58まで黒4子を大きく飲み込み、大逆転となった。黒は43で2図の1、3で左下をしっかり生き、5と戻しておけば勝勢のままだった。
「39、41の2子くらいは取られてもいいかなと見ていたのですが。こんなに薄いとは思っていなかった」と藤原さん。
黒53で57にツゲば紛れる手段もあったようだが、秒読みでもあるので闇試合になりそうだ。優勢だった藤原さん、気持を立て直せたかどうか……。
〈第4譜〉59―135 通算159―235
内田さんは大逆転で勝利をつかんだ。
石倉九段は「内田さんの実力は申し分ありません。危険な碁もありましたが、勝負強さ逆転力があります。安定感抜群で乱れない藤原さんを乱して勝ちをつかみました」と講評した。
優勝インタビュー
――優勝おめでとうございます。率直な気持をお聞かせください。
内田「嬉しいです。悪い碁が多くて、運が良かった。運が味方してくれました。打っているときは、ひっくり返して勝ってきた相手のかたたちのためにも勝たないと、という気持でした。私は気合が入り過ぎてよくなかったのですが、きょう、決勝前に師匠の岩田一先生に会ったとき、『祐里なら大丈夫』といわれて、だいぶリラックスできたのがよかったのだと思います」
――現在はどんなお仕事をされているのですか?
「教えるのがメインで、自分の勉強は電車の中だけですね。プロを目指していたときは、自分が強くなることが目的でしたが、教える立場になりますとコミュニケーションが大事で、相手によって言い方や表情を変えるなど、相手のことを考えていくことになります。以前は表情筋がかたく、笑顔も苦手だったのですが、少しは良くなったでしょうか」
――以前と比べて、何かかわったことなどありましたか。
「教える仕事をしているのですが、去年まではどうしたらいいか分かりませんでした。今年に入ったくらいからなんとかプラスに考えられるようになりました。自分が想像していない手を打たれることが多く、思考の幅が広がったのがよかったように思います」
トピックス
最年少は8歳
最年少8歳、小学2年生の内田真里佐さん(関西)は、4人きょうだいの末っ子。上の3人のお兄さんたちが県代表の強豪で、3歳のとき、付き添いの親について行った古谷囲碁センターで「やりたい!」といって、週に1回通うようになった。今回の成績は1勝2敗。「最後に1回勝って嬉しい」とにっこり。読書が大好きだそうで、「碁と本を読むの、どっちが好き?」ときいたら、首を傾げて笑顔を見せてくれた。
もうひとり最年少、8歳の太田栞菜さん(山形)も、2連敗のあと1勝を挙げた。「お父さんが囲碁をやっているので、やってみたらといわれて5歳のとき始めました」。ふだんはコンピュータとの対局が多く、人と打つのは月に2回くらいだという。お父さんは全国に知られた強豪。最後に「お父さんは厳しい?」ときいたら、ちょっとうなずいた。「碁は楽しい?」には「楽しいこともある」。負けたり取られたりしたらつらいこともあるよね。それも含めて楽しくなることを願っている。
被災地へエール!
1月の能登半島地震で被災された地域(石川県、富山県、福井県)代表4人に、本大会後援の桜ゴルフ代表取締役社長・佐川八重子さんからお見舞いの品が贈られた。
石川県代表の鈴木幸子さんは「この大会でもいろいろなところで『大丈夫でした?』と声をかけていただきました。私自身も実家も大丈夫だったので、被災地代表のつもりで来たわけではなかったのですが、やはり地元代表として来たのだと改めて思うようになりました。皆さんからいただいた支援、お声、SNSの投稿なども励みになっています。佐川さんからのお心遣いにも感謝します」と謝辞を述べた。
※一次リーグの結果はこちら
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