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〈無料記事〉【東京科学大学】平田智也八段、上野愛咲美五段の囲碁授業「囲碁で学ぶ実践力」

 「ミライを育てる」の第10回は今年の10月に東京工業大学と東京医科歯科大学が統合して誕生した東京科学大学の授業「囲碁で学ぶ実践力」を紹介する。今回はその前編。
 この授業は元々東京工業大学の卒業生である滝久雄氏(第45回大倉喜七郎賞受賞者)の呼びかけで2013年に開講された授業である。開講から昨年度までメイン講師は原幸子四段が担当。14回の講義のうち2回に大橋拓文七段がゲスト講師として登壇する形であった。
 東京科学大学に統合してからは講師も一新され、メイン講師に平田智也八段、ゲスト講師に上野愛咲美五段となった。平田八段、上野五段の両名が登壇した初回の授業と、13路盤での授業が行われた第7回の授業を紹介する。

自己紹介する平田八段

 初回の授業では映写資料を用いての講師の自己紹介や囲碁の歴史、AIとの関りなどの座学を中心に合間で囲碁のルールの説明と平田八段と上野五段による模範対局が行われた。自己紹介では両講師の掛け合いで盛り上がり、囲碁の歴史については平田八段が丁寧に説明をしていた。

自己紹介する上野五段
9路盤での模範対局の様子

 模範対局では両講師笑顔を見せながら対局が行われた。9路で終局までと、序盤のみだが19路盤での模範対局が行われ、受講者の注目を集めていた。教室は満杯で、履修希望の学生が定員以上集まり囲碁授業の人気がうかがえる。

19路盤での模範対局の様子

 初回の授業を終えての感想を両講師と授業を担当する天谷賢治教授に伺った。

「緊張しました」と話す平田八段

平田八段
 「緊張しました。初回の授業は囲碁についてや、歴史についてしゃべることがメインで自信がありませんでしたが、ひと先ず終わってほっとしています。来週からは実技になるので、受講生も講義だけを聞いているよりプレイする方が理解しやすいし楽しいと思います」

「次に登壇する回が楽しみ」と話す上野五段

上野五段
 「めちゃくちゃ緊張しました。平田先生がほぼしゃべってくれたので、囲碁の歴史など勉強になりました。囲碁の授業を受講する学生は成長が著しいと聞いています。次に授業に登壇する際には19路盤が打てるようになっているとのことなので楽しみです」

授業を見て「感銘を受けた」と話す天谷教授

天谷教授
 「平田先生と上野先生の2人の事前打ち合わせなしの掛け合いを見て、囲碁を打つ方のコミュニケーション力の高さに感銘を受けました。普段は黙ってしゃべらないでやっているのにお互いの考えることを察しあう能力がすごいなと引き込まれました。かなり学生も注目をしていて、普段であれば教室に入れないほど学生が溢れかえるということはありませんが今回は溢れました。実技もあるので受講者を絞らないといけないのが心苦しいです」

 2回目以降の授業では平田八段が9路盤などの小さい碁盤を用いて基本から教えていく。最終的には19路盤で対局が出来るようになる予定で、上野五段は学生が19路盤での対局に慣れてきた13回目(全14回)の授業に再度登壇する予定になっている。

第7回の授業で石の生き死にを解説する平田八段

 第7回の授業は平田八段が単独で教える回。まず石の生き死について黒板に貼った大盤で解説し、その後「星」「天元」「小目」などの囲碁の用語の紹介を行った。解説パートの後は、13路盤で模範的な対局の棋譜を途中まで並べて、そこから学生が打ち始める形で対局が行われた。対局では学生同士が真剣に碁盤に向き合っているのが印象的であった。また初心者同士での対局でしばしば課題となる終局が分からないという状況がほとんどなく、どの対局も半コウなどを残さず終局していた。対局の合間で、平田八段が見回った際に見つけた形を解説することで受講生の理解を高めていた。

学生同士の対局の様子
囲碁用語を黒板に板書して解説する平田八段

 第7回の授業を終えた平田八段にお話を伺った。

・授業を7回やってきた感想を教えてください
 「皆さん理解力がとてもあって教えがいがあります。常に自分の想定より上をいかれています。初回、2回目のころは終局の仕方が分からないという声があり忙しかったですが、かなり減ってきました。理系の大学なのもあるのか詰碁を解いたり、AIの話は好きな方が多いのかなと思います」

・教えるにあたって工夫していることは何かありますか
 「受講生は考えることが好きなので自分の頭で考えてもらえるようにしています。例えば答えを教えるのではなく、いくつか選択肢を与えてこういう風に考えるといいよと教えています。また囲碁用語をついつい使ってしまうので、初めて使う際は黒板に書くようにしています」

・今後について教えてください。
 「上野先生と学生5、6人で1チームの対局を行う予定です。意気込みというわけではありませんが、19路盤で最後まで打てるように引っ張っていきたいです。また人生の趣味の一つとして楽しんでもらえればうれしいですし、それを周りに広めてくれたらさらに嬉しいです。アンケートなどでも楽しいという声も多いので励みになっています」

 次回の「ミライを育てる」では、東京科学大学後編として第13回の授業で行われた上野五段と学生の対局の模様をお伝えする予定です。次回もぜひご覧ください。


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