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有終の美を飾る、ファイナル大会【第10回熊野那智黒碁石まつり】

 第10回を迎えた「熊野那智黒碁石まつり」(主催・熊野那智黒碁石まつり実行委員会、日本棋院三重県支部連合会、共催・(有)熊野市観光公社)が熊野市文化交流センター、熊野市労働福祉会館にて10月26、27日の両日に渡って盛大に催された。
 団体戦と個人戦が行われ、団体戦(無差別)ではプロBチーム(酒井佑規五段、表悠斗二段、高雄茉莉二段)、個人戦(名人戦)では栗田佳樹さんがそれぞれ優勝した。
(記・内藤由起子)

「碁石まつりとは」

 「熊野那智黒碁石まつり」は2013年(平成25年)10月に第1回が開催された。
 那智黒石の日本唯一の産地は三重県熊野市なのに、「和歌山県那智地方で産出」(当時の広辞苑)との誤解が定着していたのを正そうというのをきっかけとし、町おこしの一環として、那智黒碁の代表的な製品である「碁石」まつりが創設された。

 名古屋から特急で3時間かかる熊野市だが、第1回からアマ全国大会優勝者を招待し、ハイレベルな大会として評判となり、団体戦と個人戦の2日制を目玉にして、全国のアマ強豪から愛される大会として成長してきた。
 コロナ禍で中断したこともあったが地元の囲碁愛好家の減少に加え世話役の高齢化などにより、10回を迎えた今回で残念ながら最後になる。
 ファイナルの第10回は、「熊野古道世界遺産登録20周年」記念もあり、初めて若手棋士が団体戦で2チーム参加する特別なイベントとなった。


1日目 団体戦

 団体戦は、「無差別戦」「シニア無差別戦」「ハンディ戦」「ジュニアハンディ戦」の4クラスに分かれ、4回戦のスイス方式で打たれた。関東や東北、さらには沖縄からも参加があり計198人が対局を楽しんだ。
 当日朝、近鉄特急が運休になり、スタート時間が遅れるハプニングがあったものの開始時間を少しずらすことで揃い、無事にスタートすることができた。

無差別戦に出場したプロBチーム(左から酒井佑規五段、表悠斗二段、高雄茉莉二段)

 「無差別戦」のアマの出場者は、大関稔さん、栗田佳樹さん、平岡聡さんらアマタイトルや学生タイトル優勝者があちこちにいるほど、強豪揃い。
 今回の目玉は、なんといっても若手プロが6人、2チームにわかれての参加だ。プロとアマが対局するときには、アマの黒番3目半コミ出しで持ち時間は45分切れ負けという、プロにとってはほぼ経験のない条件での対局となった。

無差別戦に出場したプロAチーム(左から順に大竹優七段、三戸秀平三段、加藤千笑三段)

 3回戦で大関さん率いる大熊義塾がプロAチームに勝って金星を挙げ、4回戦ではプロBチームと全勝決戦となった。
 プロが自力を出して、4勝0敗で勝って優勝を決めた。3勝1敗となった大熊義塾は勝ち星の差で3位となり、プロAチームが2位に滑り込んだ。

無差別戦で優勝したプロBチームの記念撮影。左は河上敢二熊野市長

無差別戦優勝 プロBチーム
 酒井佑規五段「表くん、高雄さんが頼もしくて、いいチームで戦えました」
 表悠斗二段「強いチームメイトのおかげで安心感があり、落ち着いて打てました。アマの皆さん全員と初対局。新鮮で楽しかった」
 高雄茉莉二段「最後の1局、1目を見逃して半目負けてしまって。それでも2人が勝ってくれて救われました。それでチームが負けていたら寝込んでいました」

準優勝 プロAチーム
 大竹優七段「チームメイトのおかげです。相手のアマの方々がすごく強くて、勝てましたが負けてもおかしくなかった。2位は運がよかった。ふだん団体戦の経験がないので、貴重でありがたかったです」
 三戸秀平三段「2位になってしまったのは、全部僕のせいです。申し訳ないです」
 加藤千笑三段「足を引っ張ってしまって申し訳なかった。チームメイトの2人がたくさん勝ってくれて嬉しかったです」

準優勝のプロAチーム

3位 大熊義塾
 大関稔「プロ2連戦、ハンディが厳しすぎて無理でした。アマを買いかぶりすぎです。チームのみんなに助けてもらいました。メンバーを選んだのは自分です」
 石田太郎「2局プロとの対戦でした。いい勝負ができ、三戸さんに勝てたのは人生でいい財産になりました。3位に入れてよかった。機会があったらまた出たいのですが」
 石村竜青「急遽代理で出場しました。1回戦だけ負けで、プロに2回勝てて、楽しかったです」

3位は大熊義塾(左から2人目は大関稔さん、石田太郎さん、石村竜青さん)

他クラスの優勝チームは以下のとおり。

シニア(60歳以上)戦
 湘南水曜会(窪庭孝・佐々木慶・渡辺一郎)
ハンディ戦A
 奈良Bチーム(北川貴浩・太田智・北川貴敏)
ハンディ戦B
 ヤング泰正会(桑原諒多・塚田光俊・羽根佑哉)
ハンディ戦C
 碁吉楽会A(兵頭俊一・野田敏博・小島松雄)
ハンディ戦D
  一期一会B(北川摩美・綿谷一恵・藤原綾美)
ジュニアハンディ戦
 横丁棋院こどもAチーム(谷豊(高校1年)・辻慶太朗(小学3年)・宮川恵(中学2年))


2日目 個人戦

 翌日の個人戦は、前日の団体戦参加の選手がほとんど残り176人が挑戦した。
 「名人戦」「シニア名人戦」「ハンディ戦(A~Eクラス)」「ジュニアハンディ戦A、B」の9クラスが開催。
 3回戦を行った後、4回戦は全勝同士のみで決定戦が行われる方式だ。
 持ち時間は45分切れ負け。

 「名人戦」は団体戦と同様、多くのアマ大会優勝者が参加。決勝に残ったのは栗田佳樹さんと北芝礼さんだった。
 栗田さんはアマ名人・アマ本因坊や世界アマ代表などとなったほか、プロの棋聖戦Cリーグで残留を果たすなどの実力者。北芝さんはアマ名人全国大会優勝など活躍する大学生だ。
 ふたりの対戦を別室でモニター観戦しながらも、気になるのは時間。
当日、JR熊野市駅17時50分発の特急に乗車しないと、名古屋駅にも当日中には帰ることができない。
 まだ終局はしていない状況で結果を知らないまま、取材を中断し駅のホームに向かった。
 電車を待っていると、ホームの向こうで両対局者が駆け込んで切符を買っているのが見えた。二人は階段を駆け上り、降りて、なんと、ぎりぎりで終電に間に合ったのだ。
 会場の熊野市文化センターは熊野市駅のロータリー内にあり、徒歩1分もかからないのが功を奏した。
 取材は車中、座席で行うことができた。結果は、栗田さんの優勝だった。

左から日本棋院三重県支部連合会長の松本尚夫さん、名人戦優勝・栗田さん、準優勝・北芝さん

名人戦

優勝  栗田佳樹「団体戦がぜんぜんだめ、ふがいない結果でしたので、個人戦も勝てる気がしなかった。勝てたのは運が良かった」

準優勝 北芝礼「第1回、11歳のときから参加しています。(大会が終わることについて)トップアマが集まって打てるいい機会がなくなって残念です」

他クラス優勝者のコメントは以下の通り。

シニア名人戦
 田内正純「決勝は全然悪い碁でしたが、石をとってしのぎました」
ハンディ戦A
 杉村颯真「初参加。結果も出せて凄く楽しかった」
ハンディ戦B
 北川貴敏「嬉しいです。死んだ石が粘ったら生き返って勝てました」
ハンディ戦C
 土井秀之「初めて参加。嬉しい限りです」
ハンディ戦D
 小西弘純「初参加。那智黒の産出地で、もっと囲碁を好きになるきっかけになります」
ハンディ戦E
 片岡俊郎「急遽参加で優勝、びっくりしました」
ジュニアハンディ戦A
 舟瀬帆夏(中1)「今までの対局の経験を今回、十分生かせたと思います」
ジュニアハンディ戦B
 天野紗良(小6)「去年は3位だったので、優勝できて嬉しいです」


那智黒石の採石場

熊野市神川町にある「仮谷梅管堂」
採掘して、碁石の厚みにスライスし、碁石をくりぬく

 那智黒石(なちぐろいし)の採石場。黒石に使われる那智黒石は、熊野市神川(かみかわ)町だけで採れ、碁石のほか硯や朱肉入れ、香炉などに加工されています。
 採掘して、碁石の厚みにスライスし、碁石をくりぬきます。碁石は厚みがあるほど高価になりますが、あまり厚すぎても球体に近くなりコロコロして打ちにくくなります。
 熊野市で加工された黒石は、宮崎県日向市に送られ、日向はまぐりでできた白石とセットになって販売されるとのことです。


ラストとなった第10回大会のパンフレット

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