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〈無料記事〉【東京理科大学】前田良二八段の囲碁授業「囲碁で養うコミュニケーション力」

 ミライを育てるの第9回は東京理科大学野田キャンパスで開講している授業「囲碁で養うコミュニケーション力」を紹介する。この授業の講師を担当するのは前田良二八段。授業の定員は60名だが、受講希望者は定員の倍の120名ほどであった。定員の倍の受講希望者から60名に絞るための作文の課題が課され、選出された60名が今期の授業を履修している。

 この授業の特徴は授業タイトルの通り囲碁を通じてコミュニケーションを養うことがメインになっている点で、対局の時間が多くを占めている。授業の席は毎回別の人と対局できるように組み合わされる。対局時の会話に制限などはされていないため、対局相手と話しながら打つことでコミュニケーションが生まれる。また話をするのが苦手な学生でも、囲碁が「手談」と言われるようにその対局から、一手一手の意味を読み取ることでコミュニケーションを取ることが出来る。ひいてはそれが他者と関わることへの成長につながる。

コウについて解説する前田八段

 今回取材したのは全15回の授業の3回目。授業の始めに、前回の授業についての質問に前田八段が答えていく。「先生の囲碁との出会いについて」や「隅に最初から打つことについて」「どうなったら強くなれるか」など様々なものがあり、一つ一つに前田八段は答えていた。その後講義に入り「コウのルール」のおさらいや「ニギリ」について、「シチョウ」「ゲタ」「ウッテ返し」など石の取り方について説明していた。
 対局では事前に決められた対戦相手と9路盤での対局が行われた。黙々と対局を重ねて何回も打つ学生や、一手一手に一喜一憂してにぎやかな学生など十人十色の様子であった。

授業風景
学生の対局の様子

 学生に授業についてインタビューを行ったので紹介していく。

1年生 S.Oさん
 「人と話すのが苦手だけれど、話したい気持ちはあり授業タイトルを見て興味がわいたので受講しました。囲碁自体は面白いです」

1年生 F.Kさん
 「小さい時に祖父にルールを教わったことがありましたが、その後囲碁を打つ機会がなかったのでこの授業を機に始めました。やってみると囲碁は意外と難しかったです」

2年生 S.Sさん
 「小さいころに将棋にハマっていた時期があり、囲碁にも興味がありました。いつかやろうと思っていましたが長く触れる機会がありませんでした。ですが大学でこういった機会があったので受けてみようと思いました。実際に受けてみて奥が深くてすごく楽しいです。他のボードゲームと比べて考える領域が違うと感じています」

1年生 T.Aさん
 「漫画の『ヒカルの碁』を読んで、そこに出てくるキャラクターがどれだけ強いのか知りたくて受講しました。やってみましたがまだ今回の対局(9路盤の対局)だと先手の方が勝ってしまいます。上手い人だとひっくり返す手があるかもしれないですが思いつかず、難しいです」

1年生 I.Aさん
 「ガイダンスを受けて先生たちの掛け合いが面白くて取りたいと思いました。囲碁は触れたことのない世界で教養としてもいいと思い受講しました。また弟や妹もいるのでその子たちに教えられるかもしれないと思っています。実際に受けてみてとても楽しいです」

「分かりやすく教えることを一番大事にしています」と話す前田八段

 前田八段にお話を伺った。

・東京理科大学の受講生の印象を教えてください。
 「明るくて喜んで囲碁に取り組んでくれるので、授業がやりやすいです」

・教える際に気を付けていることはなにかありますか。
 「分かりやすく教えることを一番大事にしています。また毎回技を教えるようにしています。学生からの振り返りは毎回60人分全て見ていて、質問があれば授業の最初の質問コーナーで全て答えています」

・今後の授業についての抱負を教えてください。
 「自分にできることを一生懸命やりたいと思います」

「いろいろなコミュニケーションのあり方がある」と話す浅井教授

 全体の統括をされている東京理科大学教養教育研究院野田キャンパス教養部の浅井英樹教授にお話を伺った。

・受講生の印象を教えてください。
 「今期はにぎやかで明るい子が多くて活気があります。前期後期やっていますが毎回違います」

・受講希望者が定員の2倍ほどとお聞きしました。
 「開講当初は定員40名で行っていましたが、例年受講希望者が多い(200人近くになるときもありました)ので、徐々に増やしていき、9年目の今年は定員を60名にしています。本当は希望者全員を受け入れられればいいのですが、やむを得ず作文(授業を受けたい気持ちが強いことを書いてもらう)による選抜という形にしています。受講希望者たちは一生懸命作文を書いてくれますし、選ばれた学生は熱心に授業に取り組んでくれます」

・前田先生の印象を教えてください。
 「前田先生は、優しくて穏やかな方で、自然体で学生に接してくださるので、大変好評です。毎回の授業で設けている質問コーナーでは、学生からのレポートを丁寧に読んで、さまざまな質問に親切に答えてくださいます」

・授業について工夫している点はございますか。
 「さまざまな人とコミュニケーションができるよう、毎回対戦相手を変えるなど、組み合わせを工夫しています。全員が多面打ちで前田先生から直接指導をうける機会も設けています。大学の授業ですので、打ちっぱなしにならないように、毎回300字程度の短いレポートを課し、授業の振り返りを行ってもらっています。また、2000字程度の最終レポート(家族や友人などに、囲碁を教えたり、囲碁について話をするなど、囲碁を通じたコミュニケーションを試み、考察する)も課しています。この課題を通して、家族や友達のことをより深く理解できるようになったという学生も多いです。受講者のなかには、『コミュニケーション能力がないのでやってみたい』『人と話すのが得意ではないので興味がある』という学生もいます。この授業は、いわゆる『コミュ力の高い』人を養成するというよりは、囲碁というツールを媒介することで、本来ならあまり話さないタイプの人とも接する機会を作り、いろいろなコミュニケーションのあり方があることを知ってもらう、ということをねらいにしています」


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