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【東邦大学】岡田伸一郎九段と吉原由香里六段の囲碁授業「情報科学実験Ⅱ(囲碁とコンピュータ)」

 第7回の「ミライを育てる」は千葉県船橋市にある東邦大学の授業「情報科学実験Ⅱ(囲碁とコンピュータ)」を紹介する。1コマ50分の授業を1日3コマ行う形で、授業の前半の1~23コマまではプログラミングやマルチメディア表現などに関して学び、後半の24~41コマで情報科学における囲碁の役割や囲碁のルールについて学ぶ。
 この授業は他大学の授業と大きく違う点がある。それは理学部の必修授業であることだ。今まで「ミライを育てる」で紹介してきた大学を含め、現在開講されている大学の囲碁授業は選択科目の中の教養科目として開講されているケースがほとんどであり東邦大学のケースは珍しい。
 今回は囲碁パートの初回の24~26コマを取材した。囲碁パートの講師は岡田伸一郎九段と吉原由香里六段(24~26コマのみ)が担当する。授業の受講者数は38名で、授業が行われたのは各席にパソコンが用意されているコンピュータルーム。そのため机には碁盤も碁石もない。

ルールを教える吉原六段

 まず初めに授業に囲碁が導入されている経緯を担当教授の豊田昌史教授から説明があり、その後吉原六段からルールの説明が行われた。
 吉原六段が講義する大盤の前にカメラが用意されており、学生たちはカメラを通してプロジェクターに映る講義を見る形になっている。石の置き方や取り方などを教え、模範対局として岡田九段と吉原六段で石取りゲームを行った。
 講師2人は「取られるのが嫌なので逃げます」など打った手の意味を説明しながら対局し、学生たちは集中して解説に耳を傾けていた。
 この日の授業ではレベルに合わせた講師2人の模範対局を挟みつつルールの解説や練習問題、学生同士の対局が行われた。練習問題や学生同士の対局には東邦大学独自の囲碁ソフトが使われた。

模範対局を行う岡田九段(右)と吉原六段(左)
囲碁ソフトの画面

 東邦大学の囲碁ソフトは以下の機能と特徴がある。

  1. 独自の操作システム
    一般的な囲碁ソフトの場合盤面をクリックすることで石を置くことができ、石を囲めば自動的にアゲハマとして石を取り上げることができる。また着手禁止点などに石を置こうとすれば警告音や、表示で石を置けないことを知らせてくれる。このソフトではそういった機能はない。ソフトの画面には碁盤と碁笥と碁笥の蓋がある。盤に石を打つためには碁笥から石を取り出し置きたい場所に置く、石を囲んだ際には取れる石を1つずつ碁笥の蓋に移動する必要がある。碁笥から石を取り盤に置く、囲んだ石を取り上げるという行為は実際の碁盤と碁石を使っている感覚に近く、囲んで石を取り上げる行為を行うことで、自発的に石をとることを学びやすくなる。また着手禁止点に石を置けることで、その形を直に見て間違っていることを学ぶこともできる。

  2. 練習問題機能
    ワンクリックで授業に使う練習問題が表示でき、問題毎に講師が図を作る必要がなくなる。次の問題に進むのもワンクリックで、テンポよく授業を進めることができる。

  3. 対局マッチング機能
    授業内での対局の組み合わせ機能があり、学生が対局募集を押すだけで、別に対局募集を押した学生同士で組み合わせてくれる。また同じ日に打った相手とは当たらないようにしてくれる。級の設定をすると、近い級同士で対局できるようにソフトが組み合わせてくれる。

  4. 投票機能
    授業で問題を解いてもらう際にAとBどちらが正解か、Aの位置には打てるかなどの質問を学生にソフト上で投票してもらう機能がついており、講師の画面で投票の結果などが確認できるようになっている。

  5. 講師画面での管理機能
    講師の画面からリアルタイムで各学生の問題の解答状況や対局の状況を見ることができる。また学生の盤面を操作することもでき学生の対局を教材として講義をすることで、理解の進みを早くすることにつながっている。

『授業が実施しやすい囲碁ソフト』について話す中島先生

 囲碁ソフトの開発と授業の準備を全般的に行っていただいている中島悠先生にお話を伺った。

・今年の受講生の印象を教えてください。
 「一つの教室に集まることが出来て、学生同士で楽しそうにやってくれているなという印象を持ちました」

・ソフトについてこだわりなどを教えてください。
 「『授業が実施しやすい囲碁ソフト』を基本的なコンセプトとして作成しました。例えば、対局を中心としたソフトウェアでは、着手禁止点には打てないですし、交互にしか石を置けません。授業を実施するうえでは、実世界と同様に碁盤と碁石を自由に操作できる方が授業しやすいだろうと思い、現実世界で碁盤と碁石を使うようなイメージで作りました。それに対して、実世界ではなくソフトウェアだからこそやりやすいこともあります。着手を巻き戻す機能、投票機能、級位に応じたマッチング機能、事前に登録された問題の読み込みなどはソフトウェアだからこそ提供できる授業支援だと思います。これらの機能はコロナ禍の際に拡充し、教員だけが講義室に集まり学生たちは自宅から参加せざるをえないような状況でも授業を実施することができました」

・今後学生に授業を通して望むことはありますか。
 「琴棋書画と言われるように、中国や日本では囲碁は知識人の技芸の一つであるとされてきましたが、現在の日本ではなかなか触れることがないように思います。この授業を囲碁を始めるきっかけにしてほしいです。また、囲碁は世界でやっている人が多いボードゲームでもありますので、世界の人とのコミュニケーションツールの一つとして学んで貰いたいと思っています」

「まずは授業を楽しんで」と話す吉原六段

 講師の吉原六段にお話を伺った。

・今年の受講生の印象を教えてください。
 「呑み込みが良く、指導がしやすいです」

・大学生ならではの工夫している点などはありますか。
 「大学生は理解が早いので、くどくど言わないようにしています」

・東邦大学ならではの授業の特徴などはありますか。
 「授業の囲碁ソフトや設備がすごいのでとてもやりやすいです」

・今後授業を通して学生に望むことはありますか。
 「まず授業を楽しんでもらって、囲碁を人とのコミュニケーションツールの一つにしてもらいたいです」

「一生の趣味にしてもらおうと思って教えています」と語る岡田九段

 同じく講師の岡田九段にもお話を伺った。

・今年の受講生の印象を教えてください。
 「熱心に聞いてくれてさぼる学生がいないです」

・大学生に教えるさい気を付けていることはありますか。
 「せっかくの機会なので一生の趣味にしてもらおうと思って教えています。覚えきってしまえば何年もブランクがあっても大丈夫なのできっちり覚えきってもらうように頑張っています」

・東邦大学ならではの授業の特徴はありますか。
 「コミや昇級システムを独自に作りました。何敗してもとにかく2勝したら25級までは昇級するので、終わったらすぐ次の対局を打ちたくなります。さぼっていても他の学生にやろうと誘われるのでそこがいいです。また練習問題などで全問正解していたら2勝、1問間違いなら1勝などとして成績に還元するようにしています」

・今後授業を受ける学生に望むことはなにかありますか。
 「普段高齢者に教える機会が多いのですが、覚えた人のほとんどは『もっと早く覚えればよかった』と言います。今大学で習える学生たちはいい機会なのでチャンスを逃さないでほしいです」


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