星合、嬉しい初優勝!【第2回「桜ゴルフ杯女流プロ9路盤大会」(後編)】
2月24日に開催された、「第2回桜ゴルフ杯女流プロ9路盤大会」(日本棋院主催、株式会社桜ゴルフ協賛は、熱戦につぐ熱戦の末、上野愛咲美女流名人と星合志保三段が決勝に勝ち上がった。(記・高見亮子)
※前編はこちら
後編では、決勝三番勝負の模様をお届けする。日本棋院公式囲碁チャンネルにて配信中の石倉昇九段と吉原由香里六段、対局者による大盤解説の模様もお見逃しなく。
決勝戦も三番勝負。一手20秒で1分の考慮時間が3回というルールも1回戦と同様だ。対局室の両者は、上野女流名人は普段どおりのリラックスした様子で、星合三段はやや緊張気味だった。
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【決勝三番勝負・第1局】
握って上野女流名人が黒番。局面図の黒1が上野女流名人らしい鋭い踏み込みだったが、局後には「もっとゆっくり攻めないといけなかったなぁ」と反省の声が聞かれた。石倉九段は、1図の黒1と打っていても黒十分だったと解説。白10までは想定図の一例だが、いい勝負だという。
実戦は、星合三段も局面図の白2から4と踏み込んで、一気に険しい様相となった。黒7と左下の白に迫り、白が苦しそうに思われたが、「白12が好手でした」と石倉九段。白Aからの切断を見ており、黒も容易に左下を取りにいけなくなってしまったのだ。この後は、右上の黒と白の攻め合いを読み切って、星合三段の勝利となった。
局後の両者の検討も興味深いシーンだった。変化図が次々と並べられていくのだが、追いつけない。その様子をモニター越しに見ていた吉原由香里六段も「すごい速さの検討ですね(笑)」と驚いていた。
56手完、白番中押し勝ち
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【決勝三番勝負・第2局】
2局目は、星合三段の黒番。「この碁は、上野さんのサバキが見事でした」と石倉九段が解説する。
局面図 黒7まで互角に進み、ここで、白8が「すごい手」(石倉九段)だった。どちらから受けるか様子を聞いた手で、結論からいうと、黒12から受けていた方がよさそうだったという。白14まで形を作り、白16から20と左辺も白地にしてリードを奪った。だが、星合三段も簡単には土俵を割らない。ここから右下の白に襲いかかり、コウ争いへと突入した。
控室では、1回戦で敗れた謝依旻七段が「9路盤はずっと戦いだから疲れます」と疲労困憊の様子。吉原六段も「今打ってるお二人もお疲れでしょうね」と見守っていた。
だが、盤上を見ながら「勝っててもコウを戦うんですか!」(吉原)、「ということは、あんまり疲れてないんじゃないですか?」(謝)という結論に落ち着いていた。
本局は、82手もの長手数の末、白番3目半勝ちとなった。
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【決勝三番勝負・第3局】
1勝1敗となり、いよいよ最終局を迎えた。大激戦を打ち終えた対局室の二人は、「さすがに疲れたよね」(星合)、「19路盤を5局打った疲労感がある」(上野)と笑い合っていた。
とはいうものの、対局が始まると「すぐに集中できた」と両雄。さすが、プロならではだ。
握り直して、星合が黒番を当てた。本局は、石倉九段に講評いただいた。
局面図 黒3から5ときたときが勝負所でした。白6のツギは19路盤では常識の手になりますけれども、黒7がなかなかの好手で白をかわし、白10に対しても受けずに黒11と打って、黒が足早の進行です。白16がちょっと早すぎました。単に18とカケツいでいた方がよかったと思います。白18にあいさつせずに黒19に打ったのが勝因。黒21を先手で利かして黒23まで、左辺が大きくなって黒が優勢となりました。
白6では、1図の白1とアテて3と出るのがよく、白11までと
なれば白よしです。黒もどこかで変化するということになります。
実戦は、上野さんが地力を出し、相当追い込んだのですが、追いつきませんでした。
結果は、58手まで、星合三段の黒番1目半勝ち。見事、星合が優勝を勝ち取った。
対局を終えて
惜しくも準優勝となった上野女流名人は「最後の碁は、9路盤の経験値のなさがめちゃくちゃ出ちゃって。なんとなくの感覚がちょっとズレてて、たぶんあんまりチャンスはなかったです」と振り返り、「でも、6局も打てたし、楽しかったです。9路盤は、今回お話をいただいてから見るようになり、けっこうAIで決まってるのなかぁと勝手に思ってたんですけど、打ってみたら全然そんなことなくて、AIを使っても、特に終盤はまるで意味がないので、思ったより全然深かったです」と語った。
1回戦で敗れた安田明夏初段は「みんなすごい先生ばかりだったので、ちょっと緊張したんですけど……」と小声。その後は笑顔が戻り「9路盤は、囲碁を始めてすぐの方にもおすすめですし、プロの立場でも本当に奥が深くて難しいので、いろいろな方におすすめだなぁと改めて思いました!」
連覇を阻まれた謝依旻七段は「(1回戦・上野女流名人との三番勝負で)2連敗じゃなくてよかったです(笑)。9路盤は改めて打つと本当に奥深くて、今日打った3局も今まであまり経験のない形ばかりで、やはり勉強になることがすごく多いなという思いです」。
出場棋士から、そして、第1回に出場し今回は解説を務めた吉原由香里六段からも同様に聞かれる感想は「9路盤は、とにかく、奥が深い」という言葉だった。
控室で熱心に観戦されていた株式会社桜ゴルフの佐川八重子社長は、「今年も堪能しました。9路盤の面白さがもっともっと広まるとよいですね。来年も開催しましょう」と話されていた。
表彰式
表彰式は、対局場でもあった「幽玄」の間で行われた。本大会を企画した石倉九段から星合三段に賞状が授与され、協賛社の株式会社桜ゴルフの佐川八重子社長からは目録が手渡された。
石倉九段からは「女流棋士のスターにご出場いただき、素晴らしい大会が開かれてうれしく思います。こういう大会を重ねて、9路盤を多くの方に知っていただきたい。9路盤は入門用と思われがちですけれども、強い人が打っても楽しめますし、また観る楽しさも味わえます。9路盤を広め、観るファンを増やして、囲碁界をどんどん盛んにしていけたらと思います」と話された。
最後に、見事な優勝を飾った星合三段の喜びの声をお伝えしよう。
「優勝したのはいつだろう?…思い出せないくらい前なので、本当に純粋に素直にすごくうれしいです。決勝戦では上野愛咲美ちゃんと戦ったのですが、愛咲美ちゃんにはやられたことしかなかったので、今日1局目勝ったときに、あ、もうこれだけで満足、というくらいすごくうれしくて。このまま(他の棋戦も)全部9路盤にしていただけると…(笑)。まさかそのあと優勝できるとは思っていなかったというのが正直なところです。この大会を通して、本当に9路盤の楽しさを改めて感じましたし、第1回、第2回どちらも参加させていただけて、とても光栄です。もし第3回があるならまた優勝を目指してがんばりたいと思いますので、ぜひよろしくお願いします。皆さんも9路盤は観るのも楽しいというのはわかっていただけたと思うんですけど、打つのも楽しいので、ぜひチャレンジしてみてください。本当にありがとうございました」
☆YouTube☆決勝戦☆
#6 【決勝戦/第1局】桜ゴルフ杯女流プロ9路盤大会
#7 【決勝戦/第2局】桜ゴルフ杯女流プロ9路盤大会
#8 【決勝戦/第3局】桜ゴルフ杯女流プロ9路盤大会
【棋譜】
決勝三番勝負 第1局
〈第2回桜ゴルフ杯女流プロ9路盤大会・決勝三番勝負〉
黒 上野愛咲美女流名人 白 星合志保三段
〈第1局〉1―56
決勝三番勝負 第2局
〈第2回桜ゴルフ杯女流プロ9路盤大会・決勝三番勝負〉
黒 星合志保三段 白 上野愛咲美女流名人
〈第2局〉1―82
決勝三番勝負 第3局
〈第2回桜ゴルフ杯女流プロ9路盤大会・決勝三番勝負〉
黒 星合志保三段 白 上野愛咲美女流名人
〈第3局〉1―58
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