全ての人に支えられて掴んだ世界一【上野愛咲美五段・呉清源杯優勝記者会見】
11月24日から12月1日の第7回呉清源杯世界女子囲碁選手権で、優勝を飾った上野愛咲美五段と日本の団長を務めた謝依旻七段が帰国。その後、両者が出席した記者会見が行われた。
上野五段の挨拶
出発前は優勝できるとは思っていなかったので、この場にいるのが不思議な気持ち。優勝できてすごく嬉しいです。3回戦の李赫さん(六段)や準決勝の於之瑩さん(八段)の碁は厳しい局面が多かった中、なんとか勝つことができて勢いにのれたと思います。
決勝戦の1局目は満足いく碁が打てましたが、2局目は相手が強すぎて完敗。その時に、謝先生と通訳の郭さんでお買い物にいけたので、安心して次局に臨めたのかなと思います。3局目は全然悪いと思っていたのですが、頑張れていたみたいです。優勝できたのは、支えてくださった方々と応援して下さった方々のお陰だと思っています。ありがとうございました。
中国での奮闘記
――優勝おめでとうございます。昨日、優勝が決まった日はどのように過ごしましたか?
「表彰式が終わった後、謝先生と郭さんに『洋食が食べたい』と言って、食事にいきました。その後、ずっと行きたかったハーゲンダッツのお店に謝先生が案内してくれて、ケーキとアイスの両方を食べました」
――対局が終わった後、メールなどで連絡がきたと思いますが、どのような内容でしたか?
「いろいろな方から頂きましたが、日本女子囲碁リーグのチームセンコーの先輩から『格好良かった!』と言ってもらえて嬉しかったです」
――本戦3回戦、準決勝では細かい碁を制しました。その碁について、感想を教えてください。
「3回戦の李赫さんと準決勝の於之瑩さんには、直近で負けていたので楽しく打てればという気持ちで臨みました。内容はちょっと『ああ……』という感じではありましたが、時間があったのでなんとか踏ん張れました」
――決勝戦の第2局は完敗という話でしたが、序盤・中盤・終盤を振り返ってみて、いかがでしたか?
「序盤はちょっと打ちづらいかなと思っていたら、割としっかり打ちにくかったようです。対局中は楽しく打っていましたが、後半にいくほど『形勢が悪いな』と感じました。第3局はどうしようかなと考えながらも、『ハーゲンダッツ食べようかな』とも少しだけ考えていました」
世界一への取り組み
――昨年は藤沢里菜七段が準優勝、今年は上野さんが優勝。そして、一力遼九段も応氏杯で優勝と、日本勢の活躍が目立ったと思います。この躍進について、上野さんはどのようにお考えでしょうか?
「1つはナショナルチームで世界戦に役立つような練習をしたこと。例えば、各棋戦に合わせた持ち時間で練習をするなど。後は、AI研究で棋士全体の実力差が小さくなったので、勢いにのれば優勝はできると思います」
――ナショナルチームでの取り組みを教えてください。
「研究すること自体は少ないのですが、対局の他に、ヨセや詰碁など作ってくださり、チーム内で一緒に取り組みます。特に、ヨセの目数計算を小山先生(空也六段)に教えて頂いたのがすごく勉強になりました」
――AIとの付き合い方は?
「AI通りに打てる方は強いと思いますが、自分の棋風に合いません。(自分の場合は)AIの意見を取り入れつつ、のびのびと打ちたい手を打つことを大事したいと考えています」
――団長の謝さんが同行したことは、上野さんにとって心強かったと思います。
「私は食べ物があるとテンションが上がるので、謝先生がチーズケーキやポテトを用意してくださり、『よし!頑張るぞ!』と力が湧いてきました。対局後のご飯もオススメのものを選んで頂き、次の対局も楽しく挑めたのかなと思います」
――藤澤一就さん(八段)は世界一の棋士を育てることを目標としていました。師匠から何か祝福の言葉はあったのでしょうか?
「師匠とは連絡先を交換しないようにしていました。怒られるのが怖いので(笑)。最近、連絡先をゲットしましたが……」
――世界戦で優勝されたことで、現地で取材を受けたと思います。世界からの見方は変わったのでしょうか?
「表彰式で中国の常昊先生が『日本の囲碁界が頑張っている』とほめてくださっていると聞いて、すごく嬉しかったです」
大きな夢を抱いて
――優勝賞金をどのように使われる予定ですか?
「優勝できたら、ハーゲンダッツを謝先生と郭さんに絶対に奢ろうと思いましたが、結局『大丈夫、大丈夫』と言われて。できたら、二人と一緒においしいものを食べにいきたいと思いますし、応援してくださった方々にもおいしいごはんを誘って、きて頂ければ嬉しいなと思っています」
――今年は充実した一年になったと思います。最後に、来年に向けて、一言お願いします。
「直近ですと、SENKOCUPが目標。男女混合の世界戦でも楽しい碁を打ちたいですし、早碁棋戦も3時間の碁も頑張りたい。リーグ入りはまだ厳しいですが、目指したいなと思っています」
最大限のサポート
――謝先生は、団長としてどのように棋士を支えたのか教えてください。
「許家元さん(九段)のように碁の技術をサポートできないので、それ以外をサポートして、気分良く打ってもらえるように心がけていました。対局開始が12時(日本時間は13時)なので、空いているレストランが限られてました。郭さんや選手達と相談しながら場所と時間を調整しました。碁の方で言えば、決勝戦の唐さんの直近の対局を調べたりとか、対策とまではいきませんが『こんな感じでいこう』などと取り組みました」
――初めての団長はいかがでしたか?
「緊張しました。万が一、私のせいで選手達が力を発揮できなかったらどうしようという思いはありましたが、碁に関しては何も心配することはありませんでした。11月23日から12月2日まで滞在する準備はしていて、上野さんが優勝してくれたので、私にとっても嬉しいですし、棋士として見習いたい部分がありました」
――横で見守っていていかがでしたか?
「対局前に現地のジムで会うんですけど、必ず上野さんが縄跳びで777回跳ぶ横で、私は筋トレしていました。対局前にリラックスしている姿を見て、そういうところも大事だと思いました。私は緊張する方なので、素晴らしいなと思いました」
――日本チームの雰囲気はいかがでしたか?
「いつも通り、毎日明るい感じでした。もちろん、日本にいる時より緊張感はありますが、通訳の郭さんにもサポートして頂いて、選手達も対局に集中できたのかなと思います」
――謝さんから見て、どのような決勝三番勝負でしたか?
「唐さんは今年に入ってから中国棋戦で活躍されていたので、注目していました。決勝戦の3局は、勝者にとって良い内容の碁でした。特に、3局目はあまりにも強かったので、もう少しすると対戦する身としては、ちょっと絶望でした。中国側も3局目を見て、負けても仕方ないという感じでした」
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