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19年ぶり日本の世界戦優勝!日本の一力、不屈の逆転劇【第10回応氏杯世界選手権決勝五番勝負・第3局】

 9月8日に「第10回応氏杯世界選手権決勝五番勝負」の第3局が中国・上海「上海途易藍呉淞口邮輪港酒店」で行われた。日本の一力遼九段が中国の謝科九段に勝利し、3連勝で世界戦優勝を飾った。日本勢が主要な世界戦で優勝するのは、2005年LG杯で張栩九段が優勝して以来、19年ぶりの快挙。

第10回応氏杯世界選手権決勝五番勝負の概要
主催:中国囲棋協会、台北応昌期囲棋教育基金会、上海市応昌期囲棋教育基金会
賞金:40万ドル(約6,400万円)
日程:9月8、10、12日(第3、4、5局)
ルール:応氏(応昌期)ルール、コミ8目(日本ルールでは7目半に相当)、ジゴ黒勝ち
持ち時間:各3時間30分、使い切ると35分ずつ2目コミ出し(3回まで)
対戦成績:一力遼九段―謝科九段
【8月12日:第1局】一力九段、黒1目勝ち
※黒番は1回35分追加(2目コミ出し)
【8月14日:第2局】一力九段、白9目勝ち
※白番が2回35分追加(4目コミ出し)
【9月8日:第3局】一力九段、黒中押し勝ち
※黒番は2回35分追加、白番は1回35分追加
3勝0敗で一力九段が優勝

現地の対局風景。黒番は一力九段(左)、白番が謝科九段

第10回応氏杯の本戦記事一覧
本戦1回戦はこちら
本戦2回戦はこちら
準決勝三番勝負第1局はこちら
準決勝三番勝負第2局はこちら
準決勝三番勝負第3局はこちら
決勝開幕前インタビューはこちら
決勝五番勝負第1局はこちら
決勝五番勝負第2局はこちら
決勝五番勝負第3局前インタビューはこちら


一力遼九段のコメント

多くの報道陣が対局開始に集まった

 ――応氏杯の優勝、おめでとうございます。今の心境を教えてください。
 「今日は苦しい時間帯が長かったので、勝ててほっとした気持ちと嬉しい気持ち。他の世界戦ではあまり勝ててなかったので、自信になりました」

 ――本局で決めたい思いが強かったのでしょうか?
 「1つ負けると流れが変わってしまうので、今日で決められれば一番理想かなと思っていました」

表彰式にトロフィーを手にする一力九段

 ――(表彰式後のZoom取材時)世界一の実感は?
 「表彰式にトロフィーの重さを感じて、実感が湧き始めました」

 ――本局は苦しい局面からの逆転という形になりました。
 「中盤で左辺と下辺のフリカワリ(157手目時点)ではハッキリ苦しいと思っていました。手応えを感じたのは、上辺のツケ(201、203手目)を2発打てた局面です」

 ――今大会全体を振り返っていかがでしたか?
 「どの碁も大変な碁が多かったですし、応氏杯の『特殊な持ち時間のルール』というところでの勝負もありましたが、全体的に今の力を出せたかなと思います」

表彰式後、関係者と両対局者で記念撮影

 ――今大会の優勝は日本碁界にとって大きな功績になりました。
 「そうですね。日本は世界戦優勝から遠ざかっていて、決勝にいくことも大変な状況が続いていました。なんとか、自分がこの場に立ちたい思いがありました。実際に世界戦優勝できて感慨深い思いもありますが、これを機に他の棋士や若手にも良い刺激になれば良いかなと思いますし、この優勝をきっかけに囲碁を始める方が増えてくれたら嬉しい」

 ――一力さんは応氏杯とつながりが強いですよね。
 「世界を意識したのは、16年ほど前に応氏杯のジュニアの大会がありまして、11歳の時に準優勝だったのですが、相手は中国の柯潔さん(九段)だったんですね。その時に世界を意識しました。準決勝の柯潔さんには16年越しの、決勝の謝科さんには前回大会で敗れた時の、応氏杯のリベンジをする気持ちで臨んでいました」

終局後の一力九段と、同行した許家元九段

 ――大勢のファンの方が大盤解説会やYouTube中継で応援していました。一言お願いします。
 「今回は第1局から大盤解説会やYouTube中継など、盛り上げてくださって、それが大きな力になったことは間違いない。すごく感謝しています」

師匠・宋光復九段のコメント
 一力三冠おめでとうございます。泣き虫だった少年の夢が叶いました。
学業、経営との両立の中で多くの試練を乗り越えての世界一、 正に立派です。また、二刀流では世界タイトルは取れないと言う多くの評価を覆す快挙でもあります。
 入門以来19年、常に走り続ける毎日の中でこれを機に師匠としては少し休みを取って欲しいと思う所ですが三冠の事ですからこれからも同じ様に今まで以上に全速力で走り続ける事でしょう。
 どうか体調には気をつけながら更なる活躍を期待しています。

日本棋院東京本院の大盤解説会の様子。解説が張栩九段、聞き手が吉原由香里六段

ハイライト図1「巧みなシノギ」

 黒1、3と下辺を守ったのが巧みな守り方。白4と受けられても、黒5以下でaとbを見て生きを確かめながら、外側に傷を残して互角の形勢だ。

現地の日本勢の検討室風景

ハイライト図2「歴史に残る一手」

 一力九段は、黒1の天元ツケから本局の流れを掴んだ。「うまくいけば歴史に残る一手」と大盤解説の張栩九段。

2005年LG杯で世界戦優勝の実績を持つ張栩九段

ハイライト図3「間隙を突く一撃」

 白1とハネられた瞬間、黒2以下と反撃するのが機敏。この後も一手のミスも許されない最強手段の道筋だが、正確に打てば黒がギリギリ支え切れる進行のようだ。

洪清泉師範「20年前に日本にきた理由がわかりました」と喜びを語った

ハイライト図4「急転直下の瞬間」

 黒1から5とコウを仕掛けるのも、白のコウ材が多く、結果的に仕掛けが不発する結果に。また、ダメが1つ詰まったことで、黒a以下の手段を決行しづらくなっているのも黒の泣き所。

【参考図1:シノギの手筋】
 単に黒1と脱出を図るのが好手。白2と切られても、黒3と包囲できる。白aは黒b以下で白ツブレ。

【参考図2:ダメが詰まる短所】
 △と▲の交換でダメが詰まっていると、黒1から3と取りにいった瞬間、白4以下と白4子を捨て石に左辺と中央を守られる。白aと中央の黒が取られる手段も残り、黒ツライ進行だ。

粘り強さを武器に戦ってきた謝科九段

ハイライト図5「不屈の再逆転へ」

 白1のツギが緩着。黒2のツケコシで上辺と中央が薄くなり、形勢不明の進行に。実戦は白3と左辺の連絡を優先したため、黒4と上辺の白陣を大きく荒らす結果となり、再逆転となった。

優勝賞金40万ドルを手にした一力九段

〈第10回応氏杯世界選手権決勝五番勝負・第3局〉
黒 一力遼(日本) 白 謝科(中国)
237手完、黒中押し勝ち

黒147(135)白150(144)

※棋譜再生はこちら

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