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栄冠を讃え、未来に繋げる【一力遼世界一おめでとうの会】

 9月29日に「一力遼世界一おめでとうの会」(主催・株式会社GOMARU)が日本棋院東京本院で行われた。このイベントは、9月8日に第10回応氏杯世界選手権決勝五番勝負第3局で一力遼九段が勝利し、世界一になったことを祝すもの。イベントの模様や囲碁界の未来について、司会を務めた平田智也八段に伺った。


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目指すべき姿

国内外で走り続ける一力九段 ©GOMARU

 世界一の棋士を輩出することは、洪清泉四段の夢でもあった。空港まで道場生(洪道場)や関係者で迎え、早い時期にお祝いの会をしようという思いから企画されたもの。準備期間が短い中、洪四段は様々なところへ挨拶に回り、少しずつ支援してもらえたという。「特に、サントリー様は全面的に協力してくださり、参加人数より多いぐらいの飲み物を用意して頂きました」と平田八段。

 また、一力九段の提案で院生や20歳以下の棋士は無料で招待する形となった。『自分ができたら、他の人の励みややる気に繋がる。目指すべき姿を見せたい』という思いがあったという。第2部の開始時間を16時半にしたのも、16時半頃に院生研修が終わることに合わせたもの。院生の半分以上が出席したようだ。

世界一への軌跡

一力遼九段の軌跡が追える写真や年表などが展示されてた ©GOMARU

 本イベントは2部構成となっており、第1部では一力九段の幼少期から世界一までの軌跡を、当時の写真や記事で追えるものが展示された。「僕の話を日記に記録したものなどが展示されていたので、懐かしい気持ちになりました」と平田八段。

 一力九段とファンとの記念撮影が行われた他、一力遼ポロシャツやサイン付きチェキ、洪道場百段突破記念冊子の限定商品が発売されており、第1部から多くのファンが訪れた。

イベント限定商品が発売された ©GOMARU

盛大なイベント

一力九段がレッドカーペットを歩いて登場

 第2部はファンと棋士との距離が近い形で行われ、約200名の方が訪れた。「レッドカーペットを歩いて、一力九段が登場するところから始まったのですが、始めから大盛り上がり。準備に尽力した方の熱意が、ファンの方に伝わったのでは」と平田八段。

 じゃんけん大会では、一力九段とじゃんけんで勝たれた方に『一力九段直筆の色紙』など用意されたプレゼントを、一力九段自身が手渡した。ファンと触れ合うことを大事にしていたという。

じゃんけん大会では30個のプレゼントが用意された ©GOMARU

 次に、決勝五番勝負第1局から第3局を一力九段と同行した許家元九段が解説。「囲碁が詳しくない方もおられたと思いますが、一力九段としては大事にしているポイント。しっかり解説していました」と平田八段。

 トークショー・質問コーナーでは、一力九段と許九段が様々な事柄に応える形式。主に、SNSで募集した質問を中心に答えたという。具体的にどのような質問や答えがあったか、一部を紹介しよう。

エピソード1「自分の名前が出るとは」
質問:最近、声をかけられたことはありますか?
答え:一人(一力九段)で寂光寺へタクシーで向かった時、『珍しいですね。何か用事はあるんですか?』と運転手に聞かれ、一力九段が本因坊のお墓について話したの始まり。『一力や虎丸、覚えやすい名前の人が増えているよね。知っていますか?』と一力九段が聞かれたそうです。「本人です」と言ってビックリして事故になったら危ないから、最後まで黙っていたそうです。

エピソード2「300年後の自分は?」
質問:韓国のインタビューで一力九段が『本因坊道策は尊敬している』と話した理由は?
答え:300年前に本因坊道策が打った棋譜を見て、今でも勉強になるのはすごいこと。一力九段は、300年後の人間に自分の棋譜を見てもらえる自信はないそうで、そういった意味でも尊敬していると話していました。

司会を務めた平田八段(左)と星合志保四段 ©GOMARU

 平田八段がイベント全体を振り返り、ファンの方々がとても暖かい印象という。「開会式の時に『コールの練習』をファンの皆様としたのですが、ノリが良くて盛大なものになりました」。


繋げる使命と工夫

9月9日に帰国後、日本棋院東京本院で記者会見が行われた

 イベントや一力九段の世界一を通して、日本碁界の未来について、平田八段に語って頂いた。

 ――棋士視点で、一力九段の世界一をどのように見えていますか?
 「高尾先生(紳路九段)が『ナショナルチームとして、いろいろな人が世界一になれる環境を作らないといけない』と言ってました。世界一を目指す意識を持った棋士や院生が増えることが大切。単発で終わらないように、流れを繋げる必要があります」

当日、1階玄関に飾られた世界一を祝した横断幕とパネル ©GOMARU

 ――世界一の影響を、ファンや新規の方へどのように広めるべきですか。
 「今回のイベントは準備する期間が短いこともあり、囲碁ファンの方がほとんどだと思います。碁界内部の活動になりがちなので、外へ発信する取り組みが必要だと感じています。例えば、一力九段が様々なメディアへ出演できるように、手合を入れない期間を作り、露出する機会を増やすなど。もちろん、一力九段は忙しいので、実現することは難しいとは思いますが」

 ――具体的に、どのようなプランが考えられますか?
 「近い所で言えば、質問コーナーで一力九段が『YouTuberのQuizKnockさん』の動画をよく見ていると言っていました。そういったところに出演をお願いしてみるなど、囲碁を知らない方々に認知してもらうことが大事」

大衆的なものへ

参加者が退場する際には、棋士たちが“ハイタッチ!“でお見送り

 ――囲碁を知ってもらった後、どのような取り組みが必要か。
 「(極論を言えば)囲碁は分からないと面白くない。逆に言えば、分かれば間違いなく面白い。ただ、あまりにもハードルが高いので、見ていても楽しいと思ってもらえるような工夫は必要です」

 ――確かに『何をすべきか分からない』という話はよく耳にします。
 「個人的な意見ですが、AIを活用しても良いので『なんでここ打たなかったんだ!』といったコメントを、理解できていなくても、どんどん言ってほしい。ただ、『お前は何も分かっていない、失礼だ』と攻撃する方も多く、YouTubeのコメントを見ていても、強気なものは少ないですよね」

 ――YouTube『日本棋院囲碁チャンネル』では、棋力の高いレベルのコメントが多いかもしれません。
 「僕がテレビで野球を見ていて『なんでこんな球を振るんだ!』とか、ついつい言っちゃうんですよ。でも、実際に自分が打席に立ったら何もできないじゃないですか。囲碁も同じで、折角AIもありますから、もっと気楽に楽しめる距離感があっても良いと考えています。多少、行儀が悪いことは増えるかもしれませんが、大衆的な認知度を上げるためには大事かなと。野球はファンの方が多いですよね。それは観戦して楽しむ方が多いからだと思うのです」

イベントのスタッフ達で記念撮影 ©GOMARU

 ――認知度を上げることは大切ですね。
 「碁界は紳士的な方が多くて、非常に素晴らしいこと。長い目で見れば、定着してくれる方は多いと言えますが、そういった方は少数派だと思います。業界全体として綺麗すぎることを望み過ぎているのかなと」

 ――最後に、碁界の発展に向けてコメントをお願いします。
 「このままいけば、碁界は右肩下がり。世界一のニュースもそこまで取り上げられていません。現状を打破するためにも、見て楽しめる工夫は必要。例えば、観る専用の棋戦を作るなど。極端なことを言えば、対局中にしゃべっても良いなど斬新な取り組みはあって良いと思います。盛り上げるために現状維持はいけない、『新しい試みを組織的に行える文化が根づけば』と考えています」

当日限定で市ヶ谷文教堂に設けられた「一力遼さんコーナー」。一力九段の多種にわたるオススメ本が並ぶ ©GOMARU
市ヶ谷の文教堂に展示されたポップ…よく見ると囲碁のオススメ本が! ©GOMARU

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